一定の語学力をお持ちの方であれば、将来的には通訳の仕事をめざそう、という方もいらっしゃると思います。
通訳の仕事に転職するには、どうすればいいのか、とお考えではないでしょうか。
通訳の仕事に従事するために、資格は必要ではありません。
しかし、通訳としての能力を客観的に示すうえで、資格を取得することはおすすめです。
本記事では、通訳の資格や外国語検定の種類と、取得方法/学習方法について解説していきます。
通訳の仕事をするのに資格はそもそも必要か
鈴木
通訳の資格や勉強方法について、詳しく教えていただけますか?
鈴木
資格の取得は、通訳への転職や就職において必須ではありません。
ただし、通訳のスキルを客観的に伝えられるので、資格の保有は転職や就職に有利に働くといえるでしょう。
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資格を取得するメリット
通訳の資格を取得するメリットは以下の2点になります。
- スキルレベルを客観的に示すことができる
- 資格を取得する過程で体系的に学べる
スキルレベルを客観的に示すことができる
転職の際、自分自身のスキルレベルを客観的に示すことができます。
なぜなら、資格や検定については、いずれも獲得点数(スコア)から客観的にレベルを判断することができるからです。
例えば、TOBISは、1級~4級があり、それぞれのレベルについて定義されています。
また、TOEICのスコア判定基準もオーソライズされたものがあります。
このように、資格や検定では、スコアと客観的レベルの対応が整理されているものが多く、客観的にレベルを示すことができるのです。
資格を取得する過程で体系的に学べる
資格取得するための学習が、その資格を保有して仕事を行うための必要な知識を学ぶことになり、将来的な仕事のイメージにつながります。
例えば、全国通訳案内士の試験は、外国語の試験だけではなく、日本の地理や歴史も試験科目となっています。
全国通訳案内士の受験をサポートする学校や、自己学習用の書籍には、上記の内容も当然プログラムに入っているため、仕事のイメージを持って体系的に学ぶことができるのです。
通訳の試験や資格
語学の試験や通訳の資格は様々あります。代表的なものを紹介します。
全国通訳案内士
「全国通訳案内士」は、日本を訪れる外国人観光客に対して、
日本の観光地や文化を案内したり、旅行中のサポートをビジネスとして行う能力があることを証明できる国家資格(※1)です。
インバウンドの増加で需要が増加しています。
英語をはじめフランス語やドイツ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、アジアでは中国語、韓国語、タイ語から選ぶことができます。
一次試験では語学の筆記試験とともに、日本の地理や歴史、産業・経済・政治文化などの試験もあることが特徴です。
二次試験では実際の外国語を使用して通訳による案内を行う口述試験が中心となります。
ビジネス通訳検定「TOBIS」
TOBISは、CAIS(NPO法人 通訳技能向上センター)が運営する民間資格(※2)です。
実際のビジネスシーンを想定した内容で、現場に即した実践的な通訳スキルを測る試験となっています。
試験の成績に応じて、1級~4級を判定することになっており、そのレベルが定義されています。
CAIS(NPO法人 通訳技能向上センター)(※2)からTOBIS試験内容から引用すると、下記となっています。
1級 | ビジネス通訳をする上で必要な知識・用語が身についており、日本語・英語の両言語において適切な表現で通訳ができる。
ビジネスの現場で逐次・ウィスパー・同時通訳のいずれのモードでも柔軟に対応できる技術が身についている。 |
2級 |
ビジネス通訳をする上で必要な知識・用語が身についており、日本語・英語の両言語において適切な表現で逐次通訳をすることができる。 ある程度のまとまった長さを精度を損なわずに通訳できる技術が身についている。 |
3級 | 一般的な社会知識/ビジネス知識と逐次通訳の初歩的スキルが身についている。
継続して関わる会議の通訳において、短い区切りでの通訳、または要点を掴んだ逐次通訳を行うことができる。 |
4級 |
英語を使ったコミュニケーションのサポートができる。 業務例として、商談会での会話の補助、外国人接客のサポート、ボランティア通訳など。 |
4級から2級は逐次通訳試験となっており、一般的な会話からビジネス会話を想定した試験で、大きく3つの内容で構成されています。
- 会話形式(英語、日本語混合)
- 短文形式(英日、日英)
- スピーチ形式(英日、日英)
いずれも、英語→日本語、日本語→英語の通訳を行う必要があります。
1級を受験するには、2年以内に2級を取得できている必要があります。また1級の試験は「同時通訳試験」となっています。
※2 CAIS(特定非営利活動法人 通訳技能向上センター /Center for the Advancement of Interpreting Skills/)
TOEIC
TOEICとは、以下の3種類の試験があります。
- リスニング&リーディングテスト
- スピーキングテスト
- ライティングテスト
リスニング&リーディングテストでは、英語で聞く・読む力をはかるテストで、990点満点で評価され、860点以上で「Non-Nativeとして十分なコミュニケーションができる」とされています(※3)。
一般的にTOEICというと、こちらのリスニング&リーディングテストを想定されることが多いと思います。
一方、スピーキングテストと、ライティングテストも存在します。
英語を話す、書く力をはかるテストになります。こちらは各200点満点で評価されます。
全国通訳案内士試験では、TOEIC リスニング&リーディングテスト、TOEIC スピーキングテスト、TOEIC ライティングテストのいずれかが、下記の一定スコアを取得している場合、英語の筆記試験が免除になります(※4)。
- TOEIC リスニング&リーディングテスト 900点以上
- TOEIC スピーキングテスト 160点以上
- TOEIC ライティングテスト 170点以上
通訳として仕事をする際の、TOEICの獲得スコアの一定の目標になるかと思います。
※3 一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会 PROFICIENCY SCALE
※4一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会 「全国通訳案内士試験」
TOPIK(韓国語)
TOPIK(韓国語能力試験)は、大韓民国政府(教育省)が認定・実施する唯一の韓国語(ハングル)試験です(※5)。
韓国語の通訳の仕事を目指す場合におすすめの資格となっています。
TOPIK1(初級)、TOPIK2(中級 / 上級)と、試験のレベルが分かれています。
各試験内容と配点は、韓国教育財団によると、下記のとおりです。
試験内容 | 形式 | 配点 | 配点総計 | |
TOPIK 1
(1~2級) |
聞き取り(40分) | 選択式 | 100 | 200 |
読解(60分) | 選択式 | 100 | ||
TOPIK 2 (3~6級) |
聞き取り | 選択式 | 100 | 300 |
書き取り | 記述式 | 100 | ||
読解 | 選択式 | 100 |
獲得点数と級の関係は次のとおりです。
TOPIK 1
- 1級 80点以上
- 2級 140点以上
TOPIK 2
- 3級 120点以上
- 4級 150点以上
- 5級 190点以上
- 6級 230点以上
2016年度より韓国語能力試験6級合格者は、通訳案内士の韓国語科目試験が免除されています。
※5 公益財団法人韓国教育財団
HSK(中国語)
HSKは中国政府教育部(日本の文部科学省に相当)が主催する、中国政府が認定する資格(※6)です。
中国語の通訳の仕事を目指す場合におすすめの資格となっています。
HSK試験の内容は、リスニング、リーディング、ライティングの3分野で構成されています。
初級レベルの1級と2級は、リスニングとリーディングのみのマークシート方式となっており、各100点の200点満点となっています。
3級以上からライティング(記述式の作文)が加わり、リスニングとリーディングと合わせて300点満点となっています。
TOPIKは獲得点数によって級を判定する、という形でしたが、HSKは自分で挑戦する級を決め、それぞれの合格ラインに到達すれば級を与えられる、という形です。
それぞれ合格基準は各級、6割以上となっています。
※6 HSK
DELE (スペイン語)
DELEスペイン語検定は、スペイン国外ではインスティトゥト・セルバンテス(※7)が実施する、高い信頼性をもったスペイン語の検定試験です。
スペイン語の通訳の仕事を目指す場合におすすめの資格となっています。
- A1(入門)
- A2(初級)
- B1(中級)
- B2(中上級)
- C1(上級)
- C2(最上級)
と6つの段階に分かれていて、各段階により試験のレベルが異なります。
各段階それぞれ、リーディング、リスニング、ライティング、口頭試験があります。
A1であれば、リスニングが45分、ライティングが25分という試験時間ですが、階級が上がるにつれて試験のボリュームが増えていきます。
C1では、リーディングが90分、ライティングが50分となります。
各試験/資格ごとの試験内容と学習方法
鈴木
あまり聞いたことがない、全国通訳案内士やTOBISってどんな試験で、どんな学習方法が有効か教えてほしいです。
鈴木
全国通訳案内士、TOBIS、英語以外の検定等の学習方法について解説していきます。
各試験の特徴によって、学習する内容・方法は変わります。TOEICをのぞく、各試験についておすすめの学習方法をご紹介します。
全国通訳案内士の学習方法
全国通訳案内士の学習の方向性としては、外国語は歴史や観光分野の語彙力が求められるため、独学で行う場合は、過去問題を中心に語彙を増やしておくことが必要です。
日本地理は地図と一緒に出題されることが多いので、地図上の位置関係を抑えながら習得すると良いでしょう。
日本歴史は、センター試験日本史Bくらいのレベルだと言われていますので、参考書等を購入して勉強することも有効な対策です。
経済的に余裕がある場合は、通学もおすすめです。外国語スクール等は、全国通訳案内士の試験対策を行っているところもあります(※8)。
全国通訳案内士は外国語だけでなく、日本の地理や歴史、産業や経済などの勉強も必要というところが、他の資格検定試験との大きな違いになります。
外国語筆記試験は、外国語→日本語、日本語→外国語の読解と訳が中心となります。
その中に、日本の風習や伝統工芸品などを外国語で説明する問題が毎回出題されています。
日本地理の問題は、外国人観光旅客の関心の強いものについての基礎的な知識を問う問題が出題されています(例えば温泉地や景勝地)。
より観光に特化した地理問題と言えるでしょう。
日本歴史の問題は、高校で習う日本史のような内容で、様々な時代から満遍なく出題されます。文学史のような問題もあります。
このように、外国語以外にも習得すべきものがあるため、難易度は非常に高いと言えます。
※8 通訳案内士ドットコム
TOBISの学習方法
逐次通訳試験(2~4級判定試験)は約60分で実施され、英語→日本語、日本語→英語のいずれも実施されます。
予め録音された問題音声を聞いた後マイクに向かって逐次通訳を行う、という形式です。
公式ホームページによると、
”試験対策としては、普段からニュースなどを通じて、ビジネス知識とその英語表現を身につけておくことをおすすめします”
と記載があり、やはりビジネス英語を中心に対策することが必須といえます。
書籍や対策本は存在しないため、攻略難易度が高いといえます。
TOPIK / HSKの学習方法
次に、TOPIK、HSKの学習方法をご紹介します。
TOPICの学習方法としては、韓国教育財団が推薦する図書(※9)がおすすめです。下記リンクより確認してください。
また、HSKについても、HSKが認定する教室や参考書(※10)が存在します。下記リンクより確認してください。
※10 HSKが認定する教室や参考書
通訳の仕事に強い転職エージェント
通訳への転職をめざす場合には、資格の勉強と合わせて、転職エージェントに登録することをおすすめします。
通訳への転職をする際におすすめの大手転職エージェントと、特化型転職エージェントをご紹介します。
大手転職エージェントその1 リクルートエージェント
引用元:https://www.r-agent.com/
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特化型転職エージェント・サイトその1 パーソルキャリアBRS
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他のエージェントも含めた求人数で、バイリンガルキャリアに特化した豊富で詳細な求人情報が魅力です。
語学レベルに沿った検索ができることも、他にはない特徴です。
まとめ
資格取得、試験受験とともに、通訳として必要な知識を日々研鑽することが重要です。
語学もさることながら、下記のような事例では、通訳対象の「知識」が必要です。
日本企業の日本人があるデータを外国人に伝えた際、「この2つには相関がある」と伝えました。
「correlation」というワードを含めて通訳しますが、日本人が主張する「相関」は、本来の相関の意味ではなく、前後の因果関係と間違った主張をしていたとすると、コミュニケーションミスが発生します。
上記の事例でいくと、統計的初歩の知識が無ければ、適切に通訳を行うことはできないでしょう。
このように、通訳の仕事には外国語だけではない要素も仕事の成否に影響するため、研鑽が必要です。