理学療法士や言語聴覚士などとともに「リハビリ職」と呼ばれ、医療や福祉の現場で活躍する作業療法士。
実際の仕事内容ややりがい、年収や将来性はどのようなものなのか、どんな人が向いているのかなど、詳しく解説します。
目次
作業療法士の仕事内容
鈴木
鈴木
主に医療機関や福祉施設で、患者や利用者に対し、作業療法という手法によるリハビリテーション(心身の機能訓練)を患者に施すのが作業療法士(Occupational therapist=オキュペーショナル・セラピスト)の仕事です。
「OT」と呼ばれることも多く、心身の病気や障害により生活に支障を来たしている人々が自立した生活をスムーズに送れるようになるまでをバックアップします。
作業療法では、食事や入浴、着替えなど、日常生活にかかるすべての動作を「作業」と定義し、作業を通じて社会との接点を保ち、社会生活をスムーズに送れるようになるためのリハビリテーションをします。
作業療法士が目指すのは「心身機能の回復」であり、リハビリテーションは精神疾患患者や精神障害者も対象とします。
そのため、作業療法士は医師の指示のもと、「基本的能力」「応用的能力」「社会適応力」の3つの能力面から患者の抱える困難にアプローチします。
これらの能力改善のため、具体的には次の4つの機能・技能の向上に取り組みます。
身体機能の向上
関節や筋肉に働きかけ、感覚機能を向上させるリハビリテーションにより、日常生活に必要な運動能力を回復させます。
高次脳機能の向上
時間や周囲の状況を把握し、それらを認識したうえでの動作の手順など、日常生活に必要な能力の回復を目指します。
患者の障害や症状によっては、レクリエーション活動を通じて情緒的な表現能力の向上に取り組むこともあります。
生活技能の向上
食事、着替え、入浴といった基本的な動作をはじめ、日常生活に必要な動作の訓練をし、患者が自分の力でスムーズな日常生活が送れるように訓練します。
また、手作業を通じて心身の機能に働きかけ、その向上を目指したリハビリテーションも行います。
社会技能の向上
作業療法士の仕事の目的は、実践的なリハビリテーションを通じて、患者が社会に適応できる力を向上させることです。
そのため、社会との関わりの中で必要な問題解決能力、学習能力及び対人関係能力を向上させ、自立した生活や職場復帰を目指します。
作業療法士と理学療法士との違いは?
鈴木
鈴木
作業療法士は「心身の機能向上」を目的としてさまざまな作業によるリハビリテーションを行いますが、理学療法士は基本的な動作能力の向上に取り組みます。
リハビリテーションの専門家として理学療法士(Physical Therapist=フィジカル・セラピスト、PT)という職業もあります。
ただし、作業療法士と理学療法士では、リハビリテーションの手法や、対象とする患者や障害の状況が異なります。
作業療法士は、入浴や食事など日常生活の動作や、手工芸や園芸、レクリエーションといった「作業」を通じて心身のリハビリテーションを行います。
その結果、患者が社会に適応できる力を向上させ、スムーズに社会復帰できるようにサポートします。
それに対し、理学療法士は運動訓練や電気療法といった、運動機能にフォーカスしたリハビリテーションを行います。
「寝返る、起き上がる、立ちあがる、歩く」といった、日常生活に必要な基本的な動作能力を向上させることに注力するのが理学療法士の仕事です。
また、作業療法士は精神疾患患者・精神障害者のリハビリテーションも行いますが、理学療法士は「フィジカル・セラピスト」の名の通り、身体能力面からリハビリテーションを施します。
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作業療法士の仕事におけるやりがいは?
病気や障害により日常生活に支障が生じている人が社会復帰する手助けができること、物理的な面からだけでなくメンタル面からも患者を支えることができることがやりがいだと感じる人が多いようです。
また、自分の興味や個性をリハビリテーションのプログラム作りに役立てられるなど、作業療法の面白み・深みを感じられることもあるようです。
患者の社会復帰をサポートできる
病気やケガ、障害により、日常生活に支障をきたしている人が、社会に適応し、自立した生活を取り戻せるサポートをするのは、作業療法士ならではの仕事です。
病気やケガの治癒ではなく、患者が社会との関わりをスムーズに持てるようになるためのリハビリテーションを施すのが作業療法士の仕事です。
患者の生きがいづくりを手助けできる
生活に困難を抱えることになった患者は、失意の中にあることが多いものです。
そんな患者に心身両面からリハビリテーションを行うことができるのが作業療法士です。
リハビリテーションを通じて患者が生きがいを取り戻し、「その人らしい」生活を取り戻す手伝いができます。
自分の興味や個性を活かして仕事ができる
患者へのリハビリテーションをするにあたり、自分の経験や興味、趣味や考え方といった個性を活かすことができるのが作業療法士の仕事の面白さです。
患者とどのような関係を築くのかも、リハビリテーションの結果を左右することがあります。
そのため、自分なりのアプローチ方法を考案し、試行錯誤しながらリハビリテーションを成功に導くことができることも、やりがいに繋がります。
リハビリテーションの成果に達成感を得られる
失意の中にあった患者が笑顔を見せたり、以前はできなかった作業ができるようになったりと、リハビリテーションの成果を通じて達成感を得られる機会が多いのが作業療法士の仕事です。
患者に寄り添い、リハビリテーションの成果を患者の近くで見届けることが大きなやりがいとなります。
作業療法士の仕事の辛さは?
鈴木
鈴木
また、日々進化する医療技術に伴って、リハビリテーション手法も変わっていくため、知識やスキルを高め続ける姿勢が必要です。
作業療法士は、大きなやりがいを感じられる一方で、リハビリテーションの過程には苦労がつきものであり、それを辛いと感じる作業療法士も少なくありません。
作業療法士の仕事には、次の2つの辛さがあります。
患者とのコミュニケーション面での苦労
リハビリテーションを成功に導くには、患者との信頼関係を築くことが重要であり、作業療法士のコミュニケーション能力が試されます。
また、リハビリテーションにあたっては、その目的や内容、アプローチ方法について患者に説明し、理解してもらったうえで取り組んでもらう必要があります。
しかし、ときに訓練の目的が分かりづらいこともあり、説明に骨が折れることもあります。
常にスキルを高める姿勢が求められる
常に進歩する医療技術と同様、リハビリテーションの手法も進化しています。
患者に最適なリハビリテーションを行えるよう、常に自分のスキルを高める姿勢でいなければならないため、負担は少なくありません。
作業療法士に向いているのはどんな人?
鈴木
鈴木
リハビリテーションに創意工夫を凝らせるような発想力も必要でしょう。
患者に寄り添える人物であること、患者がスムーズな日常生活を取り戻すことに喜びを感じられる人であることが重要です。
患者の症状や性格に合わせてリハビリテーションプログラムを組む場合もあるため、柔軟な発想力も求められます。
また、リハビリテーションの結果が出るには時間がかかるため、体力とともに、根気強くリハビリテーションを続けられる忍耐力・精神力も必要になります。
具体的には、次のような人が作業療法士に向いていると言えます。
困難を抱える患者に寄り添える人
病気やケガ、障害により生活に困難を抱える人は、すぐにリハビリテーションに前向きに取り組めるとは限りません。
そんな場合でも患者にも寄り添い、思いやりをもってリハビリテーションを行うことができる人であることが重要です。
「人が好き」「コミュニケーションが好き」といった点も大切な適性です。
柔軟な発想力を持っている人
固定観念にとらわれず、「今この患者さんにはどのようなリハビリテーションが必要か」という観点からリハビリテーションプログラムを考えることができる人です。
リハビリテーションの効果が現れない場合に、手法の転換を求められることもあるため、柔軟な発想力が必要です。
また、仕事以外のことに対する興味をリハビリテーションに活かすような、遊び心が良い方向に働くこともあります。
観察力のある人
患者の様子から症状をくみとったり、些細な変化からリハビリテーションの効果を推測したりと、観察力も大切な適性です。
患者に寄り添うには、コミュニケーションの中から患者の異変や容態を察しようとする姿勢が欠かせません。
根気強さと忍耐力のある人
リハビリテーションの成果が現れるのには時間がかかることが多いため、根気強く作業を繰り返せる忍耐力が必要になります。
なかなか効果が現れない場合でもじっくり患者に寄り添い、リハビリテーションを通じてその社会復帰を応援できるような根気強さ、忍耐力が要求されます。
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作業療法士の仕事の将来性は?
近年、急速に高齢化が進んでいることが社会問題となっています。
そのため、高齢者が自立した生活を送れるようになることをサポートするリハビリテーションの需要がますます高まると見込まれます。
作業療法士は精神疾患患者や精神障害者、発達障害者のリハビリテーションも手がけます。
こうした領域の医学の発展や社会的な認知度の変化により、疾患や障害があると診断されたり、認定されたりするケースが増加しています。
これまで「性格」「個性」とされてきた症状が疾患や障害であると認知され、病名がついて顕在化することで、リハビリテーションを必要とする人々は増えることが予測されます。
さらに、回復だけでなく予防や悪化防止を目的としたリハビリテーション需要も増えてきています。
このような各方面でのリハビリテーション需要の増加を見ると、作業療法士の需要が続く可能性は高いと言えます。
しかし、需要の増加とともに作業療法士の数も増加傾向にあります。
作業療法士になってからも、スキルを磨いたり上位資格の取得を目指したりするなど、自分の市場価値を高める努力が必要です。
作業療法士の年収は?
作業療法士の年収は高いとは言えませんが、それには平均年齢も関係していると推測されます。
ここでは作業療法士が年収を上げるための方法も併せて解説します。
作業療法士の平均年収
厚生労働省が発表している作業療法士(理学療法士含む)の平均年収は408.5万円(平均年齢32.9歳)です(2019年3月29日現在※1)。
医療従事者の中では平均よりやや低めであり、国内給与所得者全体の平均(432.2万円)より低くなっています。
しかし、作業療法士(理学療法士含む)の平均年齢は32.9歳と、国内給与所得者の平均年齢(46歳)よりもかなり低いことが一因と推測されます。
一般的に、日本では経験を積むとともに給与が上がっていくことが多いためです。
※1 厚生労働省 『賃金構造基本統計調査/平成30年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種』
作業療法士が年収を上げるには
作業療法士が年収を上げるには、主に3つの方法が考えられます。
1つめは、作業療法を用いたリハビリテーションの専門家としての知識・技能を磨くことです。
「認定作業療法士」や「専門作業療法士」をはじめ、作業療法士には関連資格が数多くあります。
これらを取得し、キャリアアップすることで昇給を目指すなど、自分のスキルを高めることで年収を上げる方法です。
2つめは、職場におけるゼネラリストとなる方法です。主任や部長といった、職場での管理職の道を歩むことによって、給与アップを狙います。しかし、こうした管理職の業務ではマネジメント能力が重視され、本来の作業療法士としての業務から遠ざかる場合もあります。
3つめは、独立して経営者となることです。
通所リハビリテーションの経営やフリーランスのセラピスト、セミナー講師など、独立した後の仕事内容はさまざまですが、自分の能力を頼りに年収アップが望める道です。
その分、経営の難しさやリスクがつきまとうことも知っておきましょう。
作業療法士の活躍の場は?
鈴木
鈴木
身体障害領域・精神障害領域・老年期障害領域・発達障害領域の4つに分かれており、それぞれの領域に該当する医療機関・福祉施設でリハビリテーションを行います。
作業療法士になるには国家資格の取得が必要です。資格取得後、どの分野のリハビリテーションを専門とするかによって、働く場所が違ってきます。
自分の適性や働き方の方向性、キャリアビジョンに合った就職先選びが必要です。ここでは、専門領域別に活躍の場を解説します。
身体障害領域
病院(総合病院や大学病院、整形外科病院など)、リハビリテーションセンター、保健所や保健センター、身体障害者福祉センターなどが主な活躍の場です。
筋力や関節の動きといった身体機能の向上に向けて、柔軟なリハビリテーションのプログラムを作ることが必要となる領域です。
高次脳機能障害を持つ患者への作業療法もこの領域に入ります。
精神障害領域
精神科病院、精神保健福祉センター、精神障害者支援センター、精神科のデイケアや精神障害通所授産施設などが主な活躍の場です。
患者が社会適応能力を向上させ、社会との関わりを保ちつつ自立した生活を取り戻せるよう、退院後や施設外の日常活動を想定したリハビリテーションを行います。
心身両面から患者のサポートをすることが必要な領域です。
老年期障害領域
認知症専門病院やリハビリテーションセンター、老人保健施設、在宅介護支援センター、特別養護老人ホーム、老人デイサービスセンターなどが主な活躍の場です。
年齢とともに低下した身体機能の改善とともに、ときに高次脳機能障害にも対応したリハビリテーションが求められます。
回復よりも維持に注力したサポートを行うことが多くなっています。
「高齢者のQOL」を意識したリハビリテーションプログラムの作成が重要となる領域です。
発達障害領域
小児病院や児童福祉施設、養護学校、発達障害児(者)支援センターなどが主な活躍の場です。
近年では、母子通園施設や児童デイサービスなども含まれることが多くなっています。
この領域では、リハビリテーション対象となるのは自閉症、脳性麻痺、知的障害、軽度発達障害などを持つ子どもです。
こうした子どもが社会と適切な関わり方ができるようにリハビリテーションや支援を行います。
社会生活に必要な環境整備や介助方法などのアドバイスをすることもあります。
やりがいがある反面、指導的な業務も含まれることから、難しさもある領域です。
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まとめ
作業療法士の仕事内容や将来性、適性や年収などについて解説してきました。
病気や障害により生活上の困難を抱える人々に寄り添い、リハビリテーションを行う作業療法士。辛いことも多いものの、人々が社会の中で自分らしく豊かに生きる手助けをする仕事であり、適性のある人には大きなやりがいのある仕事です。
将来性や今後のキャリアビジョンも踏まえ、自分に適した領域での活躍を目指しましょう。